楼門五三桐と思いつつ、義経千本桜



和歌で言う本歌取のように、歌舞伎にも人気の演目の演出というか、セリフを組み込む演出があります。

猿之助版義経千本桜も、大詰めではいきなり、楼門五三桐風の場面が組み込まれています。
この3分過ぎからのセリフがとても良くて、引用すると


「訓令こうむり佐藤四郎兵衛忠信が兄の敵を参ぜんと勝負の場所は華櫓。

教経うたんと来てみれば、春爛漫の華吹雪。華に見まごう人の波。

この眺めを値千金とは小さいたとえ。今日万雷のご見物。我が為には値万両、万万両。」


南禅寺の山門から見える華(桜)と、観客。
舞台の上のフィクションと、実際に起きている芝居見物という事実をないまぜにしながら、楼門五三桐で五右衛門が言う「我が目からは値万両、万万両」を取りこんで、観客に感謝の一言。

この一場面に、私が芝居に感じる魅力が凝縮されています。

フィクションと現実をないまぜにして、観客に夢を見させるのです。
これが、ただただ、形にはまって同じ事を繰り返していたのでは面白くもなんともありません。

形にはまりつつ、現実を取り入れるからこその面白さというか。

来年の1月の松竹座は新猿之助の襲名披露興行です。演目はまだ出ていませんが、ぜひ、義経千本桜四の切を大詰め付きが見たいです。

ちなみに、楼門五三桐はこんなお芝居です。(お芝居というより、一幕か)
吉右衛門がやたらかっこいいですが、最後にちょろっとしか出ない菊五郎もこれまたかっこいいです。