ベーカーパンツの生地


8月に納品になるベーカーパンツ。定番で使っているバックサテンは2010年、生地屋さんに作ってもらいました。

WORKERSは「こう作ってほしい」という企画・規格を出して生地屋さんのリスクで作ってくれたおかげで今では多数のブランドさんが使っています。

別注にしてしまって、この生地はWORKERSだけしか使えない!としてしまっても良かったのですが、それやると、よく似た別の生地をたいていどこかの生地屋さんなり人が作るのです。そんなことするのは、参考にした古着なりスペックなりに申し訳ないなと思い、あくまで

「企画・規格WORKERS」にしておきました。

まずは、MIL-SPECの入手から。
今回、参考にするMIL-T-838D

これに一番近いスペックと言う事で、MIL-T-838HとLを入手しました。

838DはMARCH 1958の表記があり、今回使った838Hは17 March 1967。10年近くの開きはありますが、製品のイラスト、作り方を見たところ、実物とほぼ同じと判断して、このスペックを参考にしていきます。

そもそも、838Dを絶対探せと言われると、探せないというのもあるのですが・・・


それこそ、ボタン、縫い糸、芯糸、梱包方法まで、それぞれの参照するスペックが列挙してあります。

まずは、生地。右下の、MIL-C-10296を探します。



これも、MIL-C-10296J、改定がだいぶ進んだスペックです。

ただ、コットンサテンである事には変わりないので、これを参考にします。


生地の重さおよび、1インチ当たりの糸の本数、引き裂き強度、仕上げの方法など細かく書いてあります。


サテンの糸の交差具合(組織)が模式図で描かれています。こういったスペックと、実物をほぐして見ながら、出来る限りの再現を試みます。


で、出来上がったのがこの生地。 

タテ14番/ヨコ8番 カード糸

MIl-C-10296Jの3.2.1にThe yarn shall be made from cotton that has been carded, drawn and spun into single yarn.とあるので、カード糸単糸を使っています。

現代ではさらに、短い繊維を取り除く「コーマ糸」というさらに一手間かけたものもありますが、そこはあえて、カード糸を選びました。

染めは硫化染めです。3.3.1に、The use of dyes or substances containing elementary sulfur compounds...とある事、またある程度洗った後の堅牢度があえて悪い硫化染めを選んでいます。

現在では単価の問題もあり、硫化染めには前処理で マーセライズ加工(シルケット加工)はしていないのですが、MIL-C-10296Jにマーセライズ加工するとありましたので、行っています。

染色性がよくなり品質が安定しますが、その分、割高な生地です。

全体として、コストをかけても色・コストを安定させようとする意図を感じるスペックでした。

現代の、「見た目がそれ風であれば、多少工程を省いてでもコストの中に収める」というファッション的な生地とは企画の意図が違います。


左が作った生地、右が古着。
色味こそ若干違いますが表面の風合いは良く似ています。