From Cotton to Jeans, part 5

パターン



セルビッジジーンズの型紙。ご覧のとおり、脇はまっすぐ。ここに生地の耳を使うからだ。裾も水平となると、シルエットを作る線は「前内股線」「前中心線」「前ウェスト線」/「後ろ内股線」「後ろウェスト線」「後ろ尻ぐり線」とわずか6本。これらの線だけでシルエットが形作られる。ヨークは単純に切り替え線として機能している。おそらく、生地の必要メーターを減らすための切り替え線ではないだろうか。



今回のジーンズはLot801ストレート/Lot802スリムテーパードの二型。型紙を比較する。シルエットのみがわかりやすいよう、ステッチ線やポケットは消している。外側がストレート、内側がスリムテーパード。まず、股上はスリムテーパードの方がわずかに浅い。また、ワタリもわずかに狭くヒップから前股にかけてのフィット感を重視している。逆にストレートはわずかにゆったりと、腰回りに縦方向の皺が入るだろう。皺=体が動いた時のゆとりだ。立った姿が美しいのはスリム。動ける、作業ができる、ワークウェア的な使い方にはストレートとメリハリを利かせている。


の図は「型打ち」と呼ばれ、生地にパターンを置いて裁断するための配置図。左が86cm巾のセルビッジ生地の場合。約2.6mほどの生地が必要。右は150cm巾の生地をCAM(裁断機)で裁断する場合、1.3m。つまり、セルビッジジーンズを作るには現代で主流の広幅生地の倍近くの生地が必要になる。




今回の生地は「キバタ」。防縮加工のかかっていない生地だ。収縮率は計算上出ているが、上の型打ちを見ても明らかなように、身頃は縦、ヨークは横、帯は縦と、生地の方向がパーツごとに違う。そのため、実際に縫製・洗濯/乾燥させた後にモデルに着用させシルエットの検討と修正が必要になる。
今回のフィッティングではウェストに対して尻ぐりが食い込みすぎるので、若干ワタリ/また上の縦方向の長さを調節している。シルエット検討は収縮率があまり無い製品でも行うが、キバタデニムの場合はさらにひと手間。フィット感や皺、形を確認して「後数センチ、ここを出したい、削りたい」「曲線の形を変えたい」という修正ポイントをさらに収縮率から逆算した数値を型紙上では動かす。

From Cotton to Jeans, part 4

織布




染色工場で巻き取られ「いざ織るぞ」という状態で運ばれたタテ糸が織機にかけられる。これはデニム織布の特徴。以前、一の宮で見たウール生地などはタテ糸を織機にかけるところから織布工場で行っていた。デニム製造はロープ染色という工程を経るので他の生地とは製造工程が違う。タテ糸を織機にセッティングするのも手間がかかり、数百本の糸がもつれ無いよう、何回も櫛ですきながら織り機にかけていく。




ヨコ糸は染色されずに織布工場へ運ばれてくる。これを、織機のシャトルの中に入る軸に巻き直す。タテ糸にせよ、ヨコ糸にせよ、精紡を経て糸に成ってからコーンアップされ、その後何回もそれぞれの工程に適した形にまき直しをされる。現代の革新織機にはこのヨコ糸を入れるシャトルは無く、エアジェットやウォータージェットを使ってコーンに巻き取られた糸がそのまま織機にかけられる。つまり、コーンの状態分(数千メートル)ヨコ糸を交換する必要が無い。シャトル織機はシャトル内の軸に巻き取れる分しか糸が無い。糸が無くなるたびに、何回もシャトルを切り替える。ミミ付の生地を良く見ると等間隔で糸を交換した痕跡を確認出来る。





織機のテンションを確認するKさん。完全別注糸ができるずっと前からWORKERSの使うセルビッジデニム生地を織ってくれた。この日も顔を見るなり「これ以上弱テンションにすると織りキズできるけどどうする!?」と。そこはギリギリのところでお願い。できる限り糸にテンションをかけないことで、糸本来が持つムラと、織ることで起きるムラを残そうとしている。下はシャトルを交換しているところ。ヨコ糸が無くなるたび、一度織機が止まりシャトルが差し替えられる。




耳にはロープ染色した糸を一本入れた青耳。動画で見せられないのが悔しいぐらい、ゆっくりとした速度で織られていく。一口に「セルビッジデニム」と言っても織機の回転数はまちまち。Kさんの織機は回転数をあまり上げない。その分、ムラがある糸を弱テンションでかけるといった気を使う織布にも適しているそう。逆に、極力ムラの少ない糸をテンションを張ってある程度速く織るセルビッジもある。これは人の好み、ニーズによる。私は自然なムラがある糸で、その糸のムラ、さらに織による凹凸感を出した生地が好きなので弱テンションで織ってもらっている。

From Cotton to Jeans, part 3

染色・整経~ロープ

コーンアップされた糸は「整経」という工程に入る。「ロープ染色」の名前の由来で糸を多数束ねロープ状に巻きなおす。写真の左奥側には何百という糸があるのだが、その機械にはノウハウや特許がある為撮影不可。糸が絡まず、切れないように巻くには最後は人の目と手が必要になる。見学中、何度も機械を止めながら微調整を行っていた。



今回はピュアインディゴのみでの染色。真っ白な糸がインディゴの浴槽を通り、出てきてすぐの状態は黄色味がかった色。これが引き上げられ、空気に触れ酸化しブルーに染まっていく。指定する色により浴槽を通る回数や速度、高さなどがコントロールされる。また、今回は行わないが糸の先染め・後染めにより色にバリエーションを持たせている。基本的にロープ染色は大きなロットの糸染めに適した方法。数千メートルであろうと数万メートルであろうと染色機をセッティングする手間・時間は同じだ。

分繊・糊付


ロープ染色された糸はバットに貯められ「分繊」という一度ビーム(軸)に巻き取られる工程がある。そこは企業秘密で写真NG。この写真はその分繊ビームから糊付けを経て最後に織機にかける状態に巻きなおしているところ。ブランド・生地品番ごとに指定の本数があり、それを1本も間違えることなく巻き取っていく。


織機にかける状態に巻き取りが終わったところ。端の方に見える白糸が後にミミ(セルビッジ)になる部分。色糸は織機にかけてから入れるので今の段階では白耳。糊付けされていながら、糸が一本一本別々になる。この糊付けがうまくできていないと織機にかけてから生地にすることが出来ないとまで言われる。


巻きあがったタテ糸は機械から外され滑車に乗せ出荷場へ運ばれる。今回の耳付き、狭巾織機でも500メートル以上のタテ糸が巻かれるので重量もかなりの物。ここから、フォークリフトでトラックに積み込み、各織布工場へ送られていく。

From Cotton to Jeans, part 2

紡績・原綿倉庫~試験紡績


海上輸送された綿は日本の綿輸入商社の倉庫に保管される。アメリカだけでなくオーストラリア、ペルー、インド、ジンバブエ、中国、世界中からそれぞれ個性の違う綿が輸入される。最終的に作る製品により同じ「綿」でも求められるスペックが違うためだ。



本番の紡績(糸作り)の前に試験紡績を複数回行う。今回は、目指す糸形状を再現するため古着を解体し、そのムラ形状をスキャン。古くは、紡績の工程すべてが未熟であったためできてしまった糸太さのムラ。これを現代の技術であえて再現している。

混打綿~梳綿~練条




糸のムラ形状も決まりいよいよ量産紡績が始まる。まずは「開俵」。圧縮されパッキンに詰められた綿を開く。その後、適度な温度・湿度に保たれた部屋で一昼夜程度置くと固く引き締まった綿が緩んでくる。これにより、後の工程で葉カスを取り除いたり、ヨリをかけたり がしやすくなる。右は綿を空気で上に巻きあげ落とす事を何回も繰り返している。ジンで取り切れなかった葉カスや枝など、汚れをできる限り取り去る。






ロール状にまとめられた綿は「梳綿(カード)」という繊維方向を揃える工程に入る。櫛を使い一定方向に成った繊維がシート状になり、最後は撚りのかかっていないロープ状の「スライバー」になる。さらに、後の工程へ動かしやすい下にローラーがついたドラム缶のようなケースに収納されていく。




スライバーを縒り合せる練条。山忠紡績では7束のスライバーを一つに、さらに8束を一つに。結果、7×8=56本のスライバーを1本にまとめ、繊維の短い・長い/太い・細い部分を均整化する。できる限り均一な繊維の束を作る工程。

粗紡~精紡~コーンアップ




練条後の繊維は缶に入れられ別フロアへ運ばれ、繊維をさらに引っ張りわずかに撚りをかける「粗紡」工程に。その後、持ち運びがしやすい形にまき直され、いよいよ糸になる精紡工程へ運ばれる。



粗紡で巻き取られた糸になる寸前の状態が上につりさげられている。ここから下に向かって精紡機を通り、我々が指定したムラ形状、糸番手(太さ)の糸が作られる。現代では、この精紡機のコントロール部分が電子化され様々なムラ形状をここで作り出すことが出来る。古くは、ここまでの工程がすべて未熟であったためできて「しまった」ムラをあえてこの精紡で再現している。




完成した糸は「コーンアップ」という巻き直しがされる。精紡後の糸自体は精紡機の下についている管に巻かれ、約1200ヤード=1100メートル程度の長さ。これを「コーン」という紙管につなぎながら巻きなおす。1コーンあたりの重さが約1.89キログラム。今回の7番糸の長さに直すと約24500ヤード=22400メートル程度になる。

From Cotton to Jeans, part 1

来秋冬で作成するジーンズ。
綿から追いかけた工程をブログでも紹介していきます。

Cotton 原綿



デニムを作るにはどの国のどんな綿を使うか? そもそも私が目指す20 世紀中頃のアメリカの デニムに使われていた綿は?おそらく大量かつ 安価に手に入る米綿(アメリカ産綿)であろう。 品種改良により当時と全く同じ・・・とは言え ないが農作物である以上環境に大きく左右され る。そこで、米綿の中でも最もベーシックなア プランド綿。EMOT と呼ばれる「イースタン・ メンフィス・ニューオーリンズ・テキサス」地 方で取れる綿。その栽培から輸出までを見る為、 栽培地でありかつ綿輸出の集積地、メンフィスへ赴いた。







メンフィスはコットン売買の集積地。かつて相場を決めた建物が今はミュージアムに。 現在、相場は電子化されニュー ヨークなど他の都市で決まる。 穀物メジャーのベテラン社員はこのコットンエクスチェンジで仕事をしたことを覚えていた。


この30 年ほどの間にもコットン業界は様変わりし続 けているという言葉が印象的だ。歩いて数分にはミシシッ ピ川が。今では観光船が往時の喧騒を忍ばせる。

ファーマー・ジン・メジャー



まず私が「こんな綿で生地を作りたい」となると、生地商に相談する。 通常、そこから先はアパレルメーカーにとってはブラックボックス化されているのだが、そこは何でも見たいWORKERS。今回、織布・染色に加えて、最終的に図の左側、原産地アメリカまで。さすがに、穀物メジャーやエージェント、ファーマーからは「ここまで来た日本のアパレルはお前が初めてだ」と言われた。







アメリカの綿花畑で一番驚いたのが、この畑はコットン、隣は小麦、隣はコーンと多様な作物が植えられていること。農家は収入を安定させる為、常に作付をコントロールする。左は「ピッカー」と呼ばれるコットンを収穫する機械。右がその収穫され固められた綿。右を歩くのが「コットン専門のエージェント」。彼が農家からコットンを買い上げ、穀物メジャーへ売る。 コットンは収穫機械も専用。栽培コストがかかるので、農家が作付けを敬遠するのが目下の悩みとの事。









コットンは「ジン」と呼ばれる種子と綿を選別する工場へ。固められた綿はそのままトラックに積ま れ運ばれる。かつては人の手、その後は馬を使った簡易的機械によって行われていた選別も現代ではほぼ全行程が機械化されている。パッキングされた綿は倉庫へ運ばれ出荷を待つ。




エージェントから綿を買い日本との貿易を行う穀物メジャー。ここは綿の等級を決める「Classing Room」。今は機械化・標準化され、各地に格付けを行う機関がありめったに使われない。穀物メ ジャーは日本だけでなく、アメリカ国内の紡績メーカーにも綿を販売している。